これは別な古本屋で働いていた頃、ちょっと耳にしたお話。
ある晩、とある古本屋に買取希望のお客があった。
持ち込まれたのは紙袋いっぱいのエロ本、当時「裏本」と称されていた類いのものだ。
店主はさっさと査定を済まして、買受確認票を記入してもらった。
が、どうもひっかかる。
買受確認票というのは、住所や名前を買取の際に記入してもらうものだが、そのお客はその職業欄に「団体職員」と記入している。が、さて……
「お客さん、どっかでお会いしましたっけ」
「え?」
「確かどこかで見たような顔……あ!」
古本屋は膝を叩いた。
「お客さん、角の交番のおまわりさんでしょ」
「い、いや、本官は警察官ではない……」
本官(笑)
うろたえて思わず一人称が「本官」とか、このおまわりさんの人の善さが窺えてほのぼのしてしまう。
これを聞いた当時は、有害図書の規制がどうしたとか、散々もめていた頃なので、こんな話が流布したのだろう。
「ほんとうにあった」と題してしまったが、よほど高額の買取でない限り、古本屋がお客にあれやこれや詮索することはない。
ちなみに、当店では基本的にエロ本は扱っていないので。
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