「死なない子供」荒川修作が死んだことについてのメモ

 2010年のことだからもう一昨年の話になってしまうのだが、荒川修作というアーティストが死んだ。

 アーティストと一口に言うより、東八道路をとばしていると、三鷹にさしかかったあたりで見えてくる奇妙な住宅を造った人、とした方が通りがいいかもしれない。「養老天命反転地」を設計した人でもあるけれど、そっちはまだ行ったことがないのでおいておく。いつか行きたいと思うけど。

 

 で、わざわざ一昨年のことを思い出してメモしてみたりするのは、この人の死にバーナード・マドフという史上最悪の詐欺師がからんでいることを、私的な経験(そんなご大層なことはないけど)も含めてちょっとまとめておいた方がいいかな、と思ったからだ。

 

 バーナード・マドフは2008年12月にFBIに逮捕された。罪名はPonzi scheme で、「ねずみ講」なんて翻訳されたりするけど、実際は単純な投資詐欺だった。ただ他と違っていたのは、この人が元NASDAQの会長だったということだ。

 被害総額は500億ドルとも650億ドルともいわれる。逮捕された当初でも、「少なくとも200億ドル」と報道されていたので、とにかくアメリカのマスコミは大騒ぎになった。当時のアメリカ経済といえば、サブプライムがえらいこっちゃになってて、それをバラまいた銀行に非難が雨あられと降り注いでいた。そんな中、この事件は、アメリカ経済のナニかを象徴するかのように暴かれたのだった。確かクルーグマンがブログで、それまでのアメリカのバブルをmadoff economy と名付けたりしていた(mad economyにひっかけてるわけ)。ぜんぜん定着しなかったけど。

 

 しかし、マドフがユダヤ・コミュニティーの顔役で、そのつながりから多くの人が騙されたことがわかるにつれ、熱を持った報道は抑制されるようになってきた。

 反ユダヤ主義(anti-Semitism)っぽい言論が増えてきたからだ。アメリカの反ユダヤ主義は、まだしっかり生き残っている。コンビニで陰謀論の本を買って読んでる程度の日本より、ずっと先鋭的だ。「アメリカはユダヤに支配された国」とか、日本では名の知れた評論家までもが口にしたりするけど、全然そんなことはないとよくわかった。この事件まで愛読していたアメリカのブログが、ちょっとそれっぽいエントリーを載せたりしたので、お気に入りから削除してしまったこともあった。あれを読んだ時のいやな感じは、今も心に残っている。(私的な経験てのはこの程度)

 

 有名人もいっぱいひっかかってて、スピルバーグもその一人。そして、ノーベル平和賞受賞者のエリ・ヴィーゼルなんかも騙されていた。

http://www.eliewieselfoundation.org/madoffupdate.aspx

 そして、その被害者の中に、荒川修作とマドリン・ギンズ夫妻もいた。

 夫妻はただマドフに投資していただけでなく、マドフも夫妻の理想の実現に協力的だったという。

 それがいきなり、最悪の形で終焉を迎えたのだ。

    "he pulled the rug out from under us."

 とギンズ夫人は表現している。

http://online.wsj.com/article/SB123785033607519075.html

 

 2010年5月19日、アトリエを解体し、多くの作品を処分した荒川修作は失意のうちに死んだ。

 彼の「人間を死の運命から解放する」理想は、「金(money)」という「死の象徴」(byジンメル)によって地にまみれた。

 

 マドフは禁固150年の刑を受けて服役中。

 たぶん、まだ生きている。