ラヴェルの『ボレロ』ってのはへんてこな曲です。それでいて、非常に愛されてもいます。
上に貼ったベジャールのボレロなんかも、そうした「愛」の一例ですね。このバレエは『愛と悲しみのボレロ』という、大河ドラマの総集編を一気に見せられるような、つまんない映画のラストにとりあげられて、一気に有名になりました。映画ではジョルジュ・ドンの踊る『ボレロ』でしたが、上の動画はシルヴィ・ギエムです。三時間もだらだら続く映画のラストが、このダンスでなければ観客が怒っちゃうとこでしたね。それは邦題にわざわざ『ボレロ』と入れたことにも現れています。原題のままLes Uns et Les Autres(人それぞれ)だったら、さっぱりだったことでしょう。
あと、ゴダールやルコントも映画にとりあげてたけど、そっちはパス。
さて、ボレロですが、初演は一応喝采を持って迎えられました。
しかし、大勢の観客が拍手する中、一人の老婦人が立ち上がり、「こんな曲を作る人は頭がおかしいわ!」と叫んで憤然と席を蹴ったそうです。
そして、そのことを知ったラヴェルはこう言いました。
「その御婦人だけが、私の理解者だ」
どうもラヴェルは、自らが生み出した作品がどのようなものなのか、今ひとつつかめていなかったようです。
天才にはありがちなことですね。
ラヴェルがアメリカに行ったとき、たまたまトスカニーニがラヴェルの作品を振るということを耳にして、そのリハーサルに現れたことがありました。
リハのあと、ラヴェルは作曲者としてトスカニーニにあれこれとアドヴァイスしました。
トスカニーニは最初のうちは大人しく耳を傾けていたのですが、話が積み上がるにつれてじれてきて、ついには、
「私の解釈の方が正しい!!」
と、作曲者に対してぶち切れたそうです。
クラシックではよく使われるたとえですが、
「子供のことを一番良く理解しているのは親だとは限らない」
てやつですね。
実際、ラヴェル自身が指揮したボレロの録音が残ってるんですが、これがペッタペタのインテンポで、抑揚の足らない味気ない演奏なんだそうです。
ある音楽家が指揮者名を伏せて弟子たちに聞かせたら、
「指揮がヘタ」「アマチュア?」「指揮者はこの曲を理解してないね」「勉強不足だな」
と散々な感想だったとか。作曲者なのに。
マーラーは自作を指揮すると、お客の入りがガタ減りしたそうです。彼の曲がまともに受け入れられるようになるのは、死後半世紀を待たねばなりませんでした。
ストラヴィンスキーなんかはマシな方ですが、それでもブーレーズの綿密な解釈がなければあやういところでした。
指揮者ってのは、ときには作曲者以上に重要なポジションを占めることがあるわけです。
ところでこの『ボレロ』、未だに決定的な銘盤というものがありません。いつまでもクリュイタンスってわけでもあるまいし。
で、個人的におすすめしたいのが、コレ。
ラヴェル:「ボレロ」&ムソルグスキー/ラヴェル編:「展覧会の絵」
伝説の指揮者、チェリビダッケです。
この人の指揮の何がすごいって、後半のテンポをしぼってないんですよ。むしろゆるめてる。それでいて弛緩していない。なんかとんでもない手品を見せられているような気分になります。最近、ボレロと言えばこればっかですね、私は。
では最後に、『のだめカンタービレ』で有名になったボロボレロをどうぞ。
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念のために断っとくと、これの動画部分は合成です。音も上手い人がわざとへたくそに演奏してますね。
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