今、我が家の冷蔵庫にはおよそ2ダースのアスパラガスがある。宮城へ出張した妻の東北土産だ。とにかくこれを速やかに食べねばならない。全速力で食い尽くさねばならない。アスパラガスは、土から抜かれたとたんに鮮度がどんどん落ちるのだ。さあ食えやれ食えと冷蔵庫の中からせっつかれてるような気分になる。
といっても料理研究家でもない我が身なれば、思うようにはかどらず、昨日は三本、今日は二本、という具合。だいたいサラダというものをそんなに大量に食べる習慣がない。さあどうする。
そういえば、指揮者の岩城宏之はアスパラが大好物で、エッセイに食べ方を書いていたな、とぼんやり思い出したので、店の棚に売れ残っている文庫本を開いてみた。古本屋はこういうとき便利だね。
本のタイトルは『棒ふりの休日』
で、肝心のアスパラの部分なんだが……
「包丁で外側の硬い皮をスッスッと削って、塩を少し多めに入れた湯で
十五分から二十分、ぐつぐつ茹でればそれで出来上がり」
「ほかほかのあついのを二、三十本、皿にのっけて、子牛の薄いステーキといっしょに食べるのがぼくは一番好きだ」
……ケタが違う。こっちが持て余してる本数をいっきに食べてしまうのだ。といっても、岩城氏が好んでいるアスパラは白くてごく細いもので、現在我が家の冷蔵庫の野菜室にのうのうとしている、ふてぶてしい印象のぶっといものとは違うようだが。グリーンアスパラはお気に召さないとのこと。なんだ、あんまり参考にならない。
「グリーンアスパラガスのこりこりしたのをバターでさっといためて、これが北海道の自慢料理の一つだなんて言われると、ワアご機嫌とかなんとか言って喜んではみせるものの、内心はなぜか恐怖を覚える。」
なんで恐怖かというと、中学生の頃風呂屋で見たじいさんのいちもつを思い出すからだそうだ。やなこと言うなあ。で、お好みの西洋のアスパラは皮かむりが多いので、包茎アスパラガスの方が好きだとかなんとか。あのねえ……
このあともアスパラへのこだわりは続き、とにかく缶詰のアスパラが一番好きで、こいつは缶をあけたとたん劣化するから、ちょいと缶をあけたらそのあけ口から直接すすり込め、と書かれている。中の汁も五秒で飲み干せ、とのことだ。
アスパラ缶いっき、って、こっちの方が「内心はなぜか恐怖を覚える」よ。
…………
で、この本は岩城宏之という人が変なだけでなく、とにかくお高く止まった印象の多いクラシック業界の人間も変人が多いことがわかります。
あと、「検便についての一考察」なんて普通に書かれてますんで、そっち系が苦手な人はご注意のほどを。
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