ググってもさっぱり出てこない『御璽事件』について少しだけメモ

 作者の戸田光典でググるとほんの少し出てくるけど、作者名を知らなければ、インターネットでいくら調べてもわからないだろう。

 ウィキペディアにしてもそうだけど、こういうサヨクっぽいことはネットで引っかかりづらいようだ。(これが英語圏だと逆になる)

 

○1961年2月5日発売の日本教職員組合の雑誌『教育評論』の臨時増刊号『教師と文芸』に、岐阜市常盤小学校教諭の戸田光典の小説『御璽』が入選作として掲載された。

 

○この二日後の2月7日に中央公論は「社告 お詫び」を朝日・毎日・読売に掲載。所謂『風流夢譚』事件で世を騒がせたことについて、被害者側からの「お詫び」である。

 

○なお、大江健三郎の『セブンティーン』に右翼が抗議したのもこの年。

 

○『御璽』はユーモア小説の体裁をとっている。

ラストで皇太子を見た小学校の小使い(当時はこの表現だった)が、「皇太子さんは色も黒うて、背も低うて、品ものうて、天皇陛下さんの時のように涙も出ませんでしたわ」と言って笑うところで終る。

 

○掲載誌が日教組の会報で作者も組合員ではあったが、この作品がことさらに特別ということは無く、当時の時代の空気としては当たりまえのものだったと思われる。1959年の『グラマ島の誘惑』(川島雄三監督)という映画なんかは、森繁久彌とフランキー堺が皇族に扮して、無人島で従軍慰安婦と追っかけっこするという内容だった。

 

○しかし、この状況を面白く思わない人たちもいるわけで、ユーモア小説『御璽』は、2月28日、自民党治安対策委員会(早川崇委員長)において取り上げられ、「天皇一家を侮辱した」「教育上問題」として党首脳部に報告されることになる。

 

○同委員会で問題になったのは、鎌崎民子という転校生のズロースに菊の紋章がついている箇所、天皇が行幸すると市民の住宅が古くて目障りだという部分、そしてラストの小使いのセリフである。

 

○こうした自民党の動きから、右翼が岐阜の常盤小学校へ押し掛け、作者の戸田教諭を脅迫。教諭は3月5日に岐阜県警記者クラブにおいて「あの小説は、個人として書いたものだが、結果として皇室に迷惑をかけたことをお詫びし、作品全文を取り消します」と頭を下げた。

 

○続いて『思想の科学』(中央公論社)1962年1月号「天皇制特集号」も発売直前に配本中止になっている。

 

○同時期、神社本庁・日本郷友連盟・生長の家・新日本協議会等の団体が「皇室の尊厳を守る運動全国協議会」を発足。「皇室の尊厳を冒す者を処罰する法律の制定に関する請願」(ようするに不敬罪みたいなもの)を国会に提出。法務委員会で審議され、内閣に回されたがそれ以上のことにはならなかった。

 

○続く1963年、直木賞作家小山いと子による小説「美智子さま」が、宮内庁からの抗議により連載を中断している。まず、同年2月に民社党の受田新吉議員が国会で「興味本位としか受け取れない」と問題にし、宮内庁は3月12日に「興味本位で世間に誤った印象を与え、好ましくない」と平凡出版に申し入れし、月刊『平凡』での連載中断と単行本化の断念を約束させた。同日付けで新聞各紙もこの件を報道。

 

○この作品については、ググると内容が一部だけ引っかかってくるが、正直まともにうけとっていいものやら迷う。とりあえず『平凡』の昭和37年12月号を入手するしかないようだ。