ほたほたと咲くあじさいの街で俟つ

 昨日はたまたま桜桃忌が定休日だったので、三鷹の太宰治文学サロンというところを覗いてきた。

 夜には台風が来るという日だったが、サロンの中はにぎわっていた。

 広さは五坪ほどか。十人も入ればいっぱいになってしまうようなスペースだ。

 太宰の写真や年表が掲示され、ガラスケースの中には古本と、生原稿のレプリカ。ケースの外には、今回初めて発見されたと新聞に載っていた葉書が立てかけてあった。

 太宰は手紙魔だったので、けっこう書簡は残っている。

 今生きていたら、きっと一日中メールを打っていただろう。

 しかし、もしメールだったらこうして形としては残らなかったわけで、生きた形跡が「残っている」というのはいいことだな、と改めて思う。

 墓の方は行かない。墓は嫌いだし、今日は太宰の命日(正確には死体が発見された日)だが、誕生日でもあるのだ。

 帰宅すると、すでに娘が学校から帰っていた。明日から期末テストなので、しっかり勉強するように言う。

 日が陰るにつれて、だんだん風雨が激しくなってきた。

 

 すさまじい風と雨が吹き荒れる。窓の外を、何千枚もの巨大で真っ黒な厚布が、猛スピードで渦巻いているように見える。

 夕食を食べていると、外からくぐもった男の声が聞こえてきた。

 何かに怒っているように、遠くで、大声で、喚いている。

 そのうち、はっきり「ファックユー」と聞こえた。「FUCK YOU」ではなく、日本語っぽく「ファックユー」である。

 それからまた何事か喚きながら、嵐の奥へ遠ざかっていった。

 電車が運転を見合わせる直前、ぎりぎりに妻が帰ってきた。

 疲れた、と口にする割には元気そうだ。出張先で美味い牡蠣を八個も食べたという。 

 

 テレビで台風の状況を見たあと、風呂に入って寝た。

 

 翌朝、雨はあがっていた。昨日道々で撮ったあじさいの画像を少し見てから、ファックユーと一人ごちて朝食を用意した。