土俗なんてものは捏造されるもんなんですよ

 えっと、一昨日に続いて『魔笛』です。ザルツブルグ音楽祭で2009年(だったかな?)演じられたものなんですが、中程まで見ると登場するダンサーの動きが、なんというかどっかで見たような感じなんですね。で、ラストまで見るとその理由がわかります。

 振り付けが舞踏家の田中泯(たなか・みん)なんですね。

 この人、今や舞踏家というより役者として有名になってしまいましたが(山田洋次『たそがれ清兵衛』『隠し剣鬼の爪』、大河ドラマ『龍馬伝』の吉田東洋など)、ちょいと前までは、なかなか日本で舞台を見られなくって、「幻の舞踏家」なんて呼ばれたりしてました。

 

 「舞踏」ってもんが、もう当たりまえのようにヨーロッパのアートシーンに取り入れられている、ってことがよくわかると思います。

 思い出してみれば、大学生時代に独仏モダンダンスのアートフィルムをまとめて見る機会があったんですが、出てくるダンサーがみんな舞踏っぽくて驚いたことがありました。どうやら70年代後半あたりに、ヨーロッパのダンス界に相当な衝撃をもたらしていたようです。中には白塗り坊主ではないにしろ、まるっきり見よう見まねの舞踏、しかもヘタクソ、なんて連中のフィルムもありまして、見せられてるこっちはいいかげんげんなりしたもんでした。

 

 さて、この「舞踏」、ちょくちょく「捏造された土俗」なんて呼ばれたりします。まあ、日本文化のどこを掘っくり返しても、こんな踊りは出てきやしませんから、天才・土方巽によって「創られた」ものだというのは明白だと思います。

 

 ただ、「土俗」と呼ばれるものは、創られたものが多いんですよ。

 しかも「見せ物」として金がとれるようになったものは特に。

 コサック・ダンスなんかロシア起源と思われてるようですが、20世紀に入ってから誰かが創ったものらしいですね。ウクライナのダンスが元だと言われてますが、昔あの辺りにいたコサックは今みたいな風に踊ってはいなかったそうです。ちなみにウクライナ語ではゴパックだそうで。

 バリ島の有名な「ケチャ」を今のような形に仕上げたのは、ドイツ人画家ヴァルター・シュピースだとされています。

 チャールダーシュはハンガリーの民俗音楽のように語られることがありますが、実際はR.マールクというユダヤ人作曲家が作り上げたものです。

 等々。

 

 まあ、元々「民族」というのが一種のイデオロギーですからね。

 伝統よりもむしろ、フィクションのほうがなじむ、ということなのでありましょう。

 わかってて楽しめばいいんじゃないかな、と思います。