人は皆自転車に乗れるようになると乗れなかった頃のことを忘れてしまうPart2

「約束を破らなくなったら、自分が無くなっちゃう」と有名な女優が言ったそうだ。グレタ・ガルボだったかなあ。言ったのは誰なのか忘れても、この台詞は良く憶えている。とにかく約束を守ることにプレッシャーを感じすぎて、なーんにもできなくなっていた時期があったから。マジメな人間には良くある話。今なら「軽度の鬱ですね。お薬出しときましょう」てなもんだ。

 今は逆に、当時の自分がおかれていた状況というのが上手く思い出せない。思い出せないどころか、すっかり忘れていた。たぶん、その時はほんのちょっとしたことがひっかかっていただけなのだ。エスカレーターに足を載せるタイミングがわからなかったり、とび箱が跳べなかったり、自転車の乗り方がわからなかったり。そういうことはきっとまだたくさんあって、これからも少しづつ、色々な「できなかったこと」を忘れていくのだと思う。

 

 なんで改めてこんな話をしてるかというと、ちょっとその忘れていたことについて思い出すことがあったから。

 娘が「学校へ行きたくない」とかぐずっているので、きいてみたらなんのことはない、授業の発表のちょっとしたことで、友達に見せて欲しい表があるのに声がかけられない、というだけのことだった。バカバカしいくらいの話だが、当人には重大問題なのだろう。ついつい頭で考えすぎて踏み切るタイミングがつかめなくなり、ポッキー三本分の隙間すら飛び越せなくなるのだ。本人は大真面目だが、端からは間抜けにしか見えない。

 こういうのに似たことは、大人になってもある。たとえば、簡単な集まりで自己紹介のタイミングを逸してそのまま別れてしまったり、日常で挨拶のきっかけをはずして何となく「アレ?」て感じになったり、バスから降りる時ベビーカーを持ってあげようとして声をかけたら無視されたり、お客様同士が「有島武郎の息子の俳優って誰だったっけ」と考え込んでいるところへ助け舟を出したものかどうか迷っているうちに二人とも店から出ていってしまったり、その他いろいろ。

 だから「これから何度もそういうことはあるよ」「次に上手くやれればいいよ」と言っておいた。案の定、娘は結局声をかけられず、件の表なしで発表することになったらしい。まあ、しかたない。

 きっと女優、それも大女優になる人なんかは、こんなことは生まれつき「忘れて」いるんだろうな。

 

 ちなみに、有島武郎の息子は森雅之。