誰からも大事にされなかったし、トキやパンダのように保護されたわけでもないし。
「数が少ないなんて嘘ウソ。たーくさんいるよ」
「あいつらけっこうしぶといし」
「じゃまだから石投げたった」
彼らはずっとそんな扱いを受けていた。
何の役にも立たないし、GDPの成長には一切貢献しないし。
こういうとこがけっこう似てるんで、勝手に親近感を抱いてたんだけどね。
ニホンカワウソ?いやいや、それについてはこないだ書いた。
ふと見回してみると、日本国内どころか世界中からその姿が消えていた。
哲学者って、いつの間に滅んだんだろう。
「いや、お前なんかの目に入らないだけで、ちゃんと生き残ってるよ」と慰めてくれる人すらいない。
「何を言うんだ、俺が哲学者だよ。さあこの胸に飛び込んでおいで」とおどけてくれる人もいない。
「哲学者は君の心の中に生きているよ。ほら自分の心の声を聞いてごらん。聴診器貸したげるから」とふざけたことを言う人もいない。
「夜空をごらん、哲学者は星になったんだよ。でもそれはだいたい32等星くらいで、ヒマラヤの頂上に登るかしないと視えないんだけどね」
……もういいよ。
最後の一人の哲学者は誰だったんだろう。
きっとその人は、一冊の本も出すことなく、世に知られずひっそりと死んだのだろう。
そして、墓碑銘にはおそらくこう刻まれている。
『ここを掘り返してはいけない』
そういえば、キェルケゴールの墓には、二十年以上その名が刻まれなかったそうだ。生前あまりに厳しく教会を批判したので、坊主たちからつまんないしかえしをされたのだ。
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