酒と煙草と男と女と夏とビールと妻と戦争

 妻に秘密にしている行為を告白する。

 実は夜な夜なショッカーの戦闘員になっているとか、そういうわくわく感のある話ではない。

 店が終って帰る途中、駅前の広場でビールを立ち飲みしているのだ。ビールといっても発泡酒だけど。

 脳がほどけて耳から出てきそうに暑い夏も、こいつがあればなんとか乗り切れる。

 ほろ苦い冷えた炭酸が喉を駆け下り胃の腑になだれ落ちる感触は、何ものにも代えがたいと思う。

 ただ、妻は往来でビールを飲むという行為をことのほか嫌う。たぶん、露出狂の次くらいに恥ずかしい行為だと考えている。

 たとえ日本に禁酒法が施行されても、これだけはやめられないだろう。警官に銃を突きつけられたら、デュッセルドルフの怪物のようにこう応えたい。

「呑み終わるまで待ってくれ」

 

 しかし、私は煙草を吸わない。ほとんど吸ったことがない。吸わなくてもずっとやって来れた。パチンコ屋や雀荘で、普通の人が吸う何百倍もの副流煙を肺に貯め込みながらも、自分で吸うということはしなかった。別に何かの考えがあってそうしたわけじゃなくて、そういう変な頑固さが私にはあるのだ。立ち食いそば屋では絶対にラーメンを注文しないとか、そういう類いの。

 煙草が吸えないと困ることは何があるだろう?

 たとえば銃殺されるときとか、そうかもしれない。

 最後の一服ができないというのは様にならない。悲劇の一生を映画化してもらえない。

「ほら、最後の一服だ」目つきと歯並びの悪い鼻毛の伸びた男が唇のあいだに煙草をねじ込んで火をつけてくれる。

「ぐぉほげほがほげほがおげほほほほほ」

「どうした」

「初めて吸ったもんで」

 かっこ悪いったらありゃしない。

 そういえば、軍隊というのはいろんな組織の中で一番喫煙率が高いそうだ。きっとみんな銃殺される時のために備えているのだろう。

 戦争反対。