さみしさのつれづれに♪

 まだ祖母がかくしゃくとしていた頃、毎年正月になると本家に親族一同がつどってすき焼きをつついた。

 それはずっと昔から続いているのだが、私が成長するに従って問題が一つ浮かび上がってきた。

 ウチの家系は下戸ばかりで、ウィスキーをロックでぐいぐいやるようなのは私一人なのだ。

 おまけにウチで作るすき焼きは砂糖がたっぷり入っている。何も知らない人が見たら、

「え?あれ?すき焼き作るんですよね?ケーキじゃないですよね?」と聞きそうなくらいの量を入れる。当然、酒に合わない。

 また出してくれる酒が、「どっかでなにかのときにもらった」というサントリーのダルマで、肩にホコリがのっかってる。うっすらかぶってるんじゃなくて、蓑でもしょってるみたくなってる。そして全員下戸だから、誰も酌してくれない。手酌でぐいぐいやる。当然悪酔いする。

 

…………さみしい。

 

 娘のバレエの発表会があったときのこと。娘たちのレッスンも、振り付ける先生方もたいへんだが、裏方をつとめる親たちもたいへんだ。

 ある日、その集まりに顔を出した。ばっちり隙のない化粧をしたお母様方がてきぱきと段取りを進め、私はその様子を間抜け面で見ているだけだった。

 最後の方になって、受付に座る人の順番に齟齬ができた。ほんの少しの時間だが、一人足りなくなるという。中心になっているお母さんが「どなたか……」と言ってもなかなか手が挙がらない。そこで「じゃあ、私が」と手を挙げた。

 しーん……

 何の反応もない。全員がこっちを見ない。それまでの流れが、地味な魔法にでもかかったように凍りついた。

 ややあって、別なお母さんが「あの、じゃあ私が」と言った。みんなほっとしたように「あ、じゃあお願いします」「よろしくね」と元通り動きだした。

 えーと……あの……これ……もしかしたらイジメ?

 バレエというのは頭のてっぺんから爪先まで「おんなのこ」のものなんだなあ、と思い知らされた。

 

…………さみしい。

 

 

 三人でカラオケに行った。私が一番下手なのは仕方がないのだが、なぜか私のリクエストする曲のビデオには、かならず長髪の辛気くさい顔のオッサンが出てくる。なんというか、高円寺の喫茶店の隅でえんえんとメンズクラブを読んでそうな、そんな感じの男だ。

 そいつが歩いたり動いたり手を振ったりするたび、妻と娘が悲鳴をあげる。

「ぐあーや〜め〜て〜〜」

「ひーきもいきもいきもいきもい」

 パンダが歩いたり動いたり手を振ったりすれば逆のパターンで声があがるだろう。すなわち逆パンダ状態。

「もーパパは歌っちゃ駄目!かならずあの変なオッサンがでてくるんだもん」

 娘に禁カラオケ令を発せられてしまった。

 

…………さみしい。

 

 独りで腕を枕にして寝転がっていると、ウチの猫がすたすた歩いてくる。

 そして私を踏んで何事もなかったかのようにまっすぐ窓辺に行って円くなる。

 その間、一度も振り返らない。

 

…………さみしい。

 

 

 ところで、猫が通ったあとって、一瞬道みたいなものが見えますよね。あれは何なんですかね。細かい毛とかが飛んでるんでしょうか。

 

 

心もよう (井上陽水)