真理のごとく振舞う言葉があらわになるとそれはジョークになるということ/もしくはどこまでいっても仮説でしかないようでいて確かなことの補論として

 以前書いたことの補足を少しばかり。

 

 ジョン・ロックは『市民政府二論(統治二論)』第一書、第一章の冒頭にこう記している。

『奴隷制が恥ずべき悲惨な人間の状態であり(中略)弁護すべきものだとよもや思われぬほどである』

 が、しかし、この「全人類の鎖」に対するロックの憤激は、新世界と呼ばれた土地、少なくともイギリス植民地のプランテーションにおいて、黒人が奴隷にされていることを対象としたものではなかった。

 じゃあこの場合の「奴隷」とは何か?

 それは専制や植民地主義のメタファであって、白人が「奴隷的境遇にある」ことだった。つまり、黒人は人間じゃないから、「恥ずべき悲惨な人間の状態」は当てはまらないってわけ。これは別にロックがひどいやつだったわけじゃなくて、当時多くの人たちが持っている「常識」であり、「共通感覚」だった。

 だいたいロックの議論からは、あらかじめ子供や障害者、そして教育を得られなかったもの、教育不可能なものなどが排除されていたし。

 その延長として、奴隷制の起源は、自由と所有権の起源と同じように、まったく社会契約の外部にある、とロックは考えていた。つまり、(黒人)奴隷制はあって当然、てわけ。

完訳 統治二論 (岩波文庫)

 

 ロックはりっぱな思想を唱えながら、王立アフリカ会社の出資者として、カロライナのアメリカ植民地政策に積極的に関与していた。

 そこでは、ロックのパトロンでもあるシャフツベリー伯爵のカンパニーを支援。1673年から75年の間、カロライナの「貿易及びプランテーションに係わる委員会」の書記を務めた。そのおりにカロライナの憲法(基本法)を書いていて、その中に『カロライナのすべての自由民は、黒人奴隷に対する絶対的権力と権威を有するものとする』との文言をしたためている。

 

 そして、アメリカ独立宣言の背景には、こうしたロックの思想が大きな位置を占めていたりするわけで……

 これじゃ、完全無欠の高徳の人トマス・ジェファーソンが、口で「奴隷解放」を唱えながら、たくさんの黒人奴隷を所有していたのもむべなるかな、と思える。

 

 人種差別の有名なジョークに

「俺は差別と黒人が大嫌いだ!」

てのがある。

 でも、この認識がジョークでもなんでもなかった時代があったのだ。少なくとも十八世紀くらいまで。

 そしてこの矛盾に満ちた冗談みたいな言葉は、まるで何かの「真理」のようにして流通していたのだ。いや、過去形にしてしまったけど、今でも一部で流通してる。

 

 で、これって「核兵器は百万の軍勢を破壊できる!だけど原発は自動車より安全だ!」とか「原発はジャンボジェットが突っ込んでもメルトダウン起こさない」に似てるよね。構図的に。

 まだ真顔でこれを口にする人もいるみたいだけど、今じゃ耳にした人のほとんどが「ふっ」と笑ってしまうと思う。

 ついこないだまで、まるで「真理」のように流通していた言葉なのにね。