「愛読書はなんですか?」と訊かれると困る。一冊の書物を舐めるように何度も何度も読み返すようなことはしない。人生は短く、書物はあまりに多いのだ。こうしているうちにも本は何冊も何十冊も生み出されている。どーすりゃいーんだー。
クリスチャンなら「聖書でーす♡」とでも答えときゃいいんだろうけど、こっちはそうもいかない。だいたい「愛読書」ってなんだ。そんな毎日毎日同じ本を読むなんてのは、出版点数が少なかった頃の習慣じゃないのか。
バレエの振付けに哲学を持ち込んだといわれるモーリス・ベジャールの愛読書は『葉隠』だった。毎晩寝る前に少しづつ読んでいたという。
コンサートをやめてレコードだけ出し続けたピアニスト、グレン・グールドの愛読書は夏目漱石の『草枕』だった。死んだ時も、枕元に聖書と重ねて置かれていたそうだ。
未だ「愛読書」に出会えていない私は、もしかすると不幸な人間なのかも知れない。
しかし、それが本を商う人間の宿命であるかも知れない。と、かっこつけてごまかしておこう。
だいたい、本当の本当に愛してる本なんてあったら、人に教えたりしたくないよねえ。違うかな。
ベスト・オブ・モーリス・ベジャール
-愛、それはダンス- [DVD]
「草枕」変奏曲―夏目漱石とグレン・グールド
漱石とグールド―8人の「草枕」協奏曲
バッハ:ゴールドベルク変奏曲(1981年録音)
ちなみに、ベジャールのバレエもグールドのピアノも大好きだ。愛していると言ってもいい。でもなんかこっちは恥ずかしくないんだな、これが。
ダンスも音楽も、私には書籍ほど切実な存在ではない、ということなのかもしれない。
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