人口は爆発だ!!

 小学生の頃、少年漫画には口絵のページがあり、ごてごてした絵で「ちびっこたちのハートをわしずかみ!」な企画があれこれ展開されていた。それは時に古代の謎であり、現代の七不思議であり、輝ける未来の超科学であった。

 そうしたコーナーにも「季節」というものがあって、夏になるとやや涼しげな企画が掲載された。幽霊や妖怪の話も多かったが、中でも記憶に残っているのがディストピアものだ。

「人類はこんなふうにして滅んでしまう!輝ける未来を信じてがんばってる君、残念でした!」てなんて感じのもの。当時はまだノストラダムスなんか影も形もなかったけれど、小松崎茂(たぶん違う)が脳髄を振り絞って人類の終末を描き出していた。「とてつもない氷河期が来てマンモスが復活!生き残れるのはエスキモーだけか?」「公害が広がりまくって食べるものがなくなる!人類はゴキブリを食べるしか生きのびる道はない!」などなど。こうして書いてるとまるでギャグだが、多くの子供たちは震え上がり、「夏休みのとも」なんかやってる場合じゃねえ、と公園へ走っていってなぜかコオリ鬼(知らんか)に日暮れまで熱中して母親に叱られたりしていたわけだ。

 

 さて、そんなディストピアものの定番のひとつに「人口爆発」があった。

 当時の日本は急激に人口が増えてとどまるところを知らず、テレビでもさんざん問題にされていて、眉間にシワを寄せた偉そうなじいさんが「このままでは日本の未来は〜」なんて憂国していたから、ガキでもなんとなくそういう「問題」を感じ取っていた。

 少年漫画の編集部も、さすがにそういう「空気」を感じ取っていたのだろう。人口爆発はディストピアの定番になっていた。

「やがて世界の人口は100億人に!」

「人口が増えすぎて日本は飢える」

「人類が70億人を突破すると世界は崩壊する」

 とかなんとか。

 あ、そういやこないだ70億は突破したんだっけ。崩壊してないな。あーほうかい。(…いかんな)

 

 人口爆発が問題視されていた頃、まさか将来少子化で悩むことになるなんて、誰も予測してなかった。

 だって、人類ってのは残らずどすけべだから、ほっとくと水辺のホテイアオイみたいにああっという間に増えるんだ、というのが常識だったから。

「だからどんどん堕胎させろ」なんて無茶を言う人もいたくらい。ちなみ当時の堕胎件数は今より何倍も多かった。昭和三十年代なんか年間百万件を越えてた。(今は二十万くらい)

 でも人口はぐんぐん増えた。

 当時の人口問題についてのドタバタぶりは、川島雄三監督の『愛のお荷物』にかいま見ることができる。

愛のお荷物 [DVD] 

 

 冒頭は国会でもやりとりで、「人口がどんどん増えてく問題を大臣はどーするお考えなのか!」と野党議員が舌鋒鋭く突っ込み、主人公の厚生大臣がごにゃごにゃ珍妙な政策を提言してごまかしている。このシーン、台詞のリズムが小気味良く、さすが鬼才・川島と思わされる。ところが厚生大臣のまわりは出産ラッシュ。自分の妻まで妊娠する。こんなことがマスコミにばれたら、と思ってたら内閣改造で防衛庁長官になっちゃった。

 最後は「防衛庁なら『産めよ増やせよ』だから大丈夫」という、今の人間にはスッと飲み込みにくいオチ。戦前の空気を引きずってる部分を皮肉ってるわけ。昔は「戦争の思い出」なんか、わざわざ語りつがんでも日常会話に頻出してたからね。こういう射程距離の長いオチも通じたんだろう。

 

 少子化についてはちょっと前に少し書いたけど、これだってあと二、三十年もしたら、「なんであの時、あんなに騒いだんだろう?」ということになるんじゃないかな。

 永遠に減り続けることなんかないんだから、「今は人口減少局面にあるんだ」ということを飲み込んで、それに対処すればいいんじゃないかと思う。

 無理に人口増やそうったって、チャウシェスクみたいにセックスを「義務化」するわけにもいかんでしょ。ルーマニアの「チャウシェスクの子供たち」ってのは、そうして誕生したもんだし。「生んでくれって誰が頼んだよ!」「党です」って、星新一のショート・ショートみたいだ。

 ああそれから、古代ギリシャでも半ば義務化してたっけ。アテネなんか、旦那がセックスさぼってると奥さんが裁判所に訴えたそうだ。ソクラテスは大丈夫だったのかな。

 

 人口が減ってゆくことで起こる問題ってのは、あまり考えた人がいない。

 マルサスの『人口論』だって、増えることばっか考えてる。

 実際人類は、困難な局面にあるほど人口が増える。

 ナポレオンの軍隊が強かったのは、当時フランスの人口が増加して周辺国より多くなり、民主化と徴兵でいくらでも兵を補充できたからだ。ジャコバンがギロチンをフル稼働させてたはずなのにね。

 

 仮説として、貧困と戦乱こそが人口を増やすのかも知れない。

 平和と豊かさは人口を「落ち着かせる」んじゃないだろうか。

 

人口論 (光文社古典新訳文庫)  

 

 

「破廉恥漢マルサス!」その著書の名も知る要なし。

(フローベール『紋切型辞典』)

 

 

紋切型辞典 (岩波文庫)