漱石忌なので夏目漱石についてのメモ追加

 大正五年(1916年)十二月九日、夏目漱石死す。享年四十九。

 四十七歳頃の写真を見ると恐ろしく老けていて、胃の病がそうとう寿命を縮めたことがうかがわれる。

 

『坊ちゃん』に登場する気障で嫌みなインテリの「赤シャツ」は、夏目漱石自身がモデル。

 そのように、自ら講演で明かしている。漱石も赤いシャツを好んで着ていたことがあり、そのスタイルで上野精養軒に入ろうとしたら、職工と間違われてつまみだされたそうだ。

 インテリ男の勘違いなオシャレ、という自嘲的な自己観察によって「赤シャツ」は生まれたのだろう。漱石自身はかなりのオシャレで、着るものにかなり気を使っていたようだ。

 しかし小説の中では、職員の中で大学を出ている「学士」は赤シャツだけだし、結局はマドンナとくっつくので、冷静になって見てみると、それほど損な役どころではない。

 

 初めて『坊っちゃん』を読んだのは、小学校五年か六年の頃だったと思う。通っていた塾の待ち合いにぼろぼろの本が置かれていて、なにかの事情で(なんだったか忘れた)そこにずっといなきゃならなかったときに読んだ、と記憶している。

 読後感は、あまり良いものではなかった。

 子供ながら、(相手を殴っただけでさっさと東京に帰っておしまい?)とすっきりしないものを感じた。

 それまで『坊っちゃん』と言えば、愉快痛快な物語との評判を聞いていたので、この割り切れなさは自分がまだ子どものせいなのだろうか、と思って長い間封印していた。

 しかし大人になると、そう感じたのはやはり自分だけではなく、『坊っちゃん』を読んだ多くの人が同様の「割り切れなさ」を感じていたことがわかった。

 そのことは、『坊っちゃんの時代』という漫画に緻密に描き出されていて、やっと長い間抱えていた「割り切れなさ」が、それを読むことですっきりさせることができた。

 

 

『坊っちゃん』の時代―凛冽たり近代なお生彩あり明治人 (アクションコミックス)  

 

 なお、上記の漫画は事実にフィクションが織り交ぜられており、登場人物のモデルは別にあることになっている。