来年は巳年なので

 昔、別な古本屋で修行している時、あるお婆さんから聞いた話。

 

 お婆さんの旦那は、田舎のとある旧家の端っこのそのまた端っこの生まれだった。

 昭和になったばかりのある年に、本家の方でちょっとしたイベントがあり、親族一同がかり出されることとなった。お婆さん(当時はまだ若かったけれど)夫婦にも招集がかかり、初めて本家に行くこととなった。

 といっても「旧」家のことだから、働かされるのは当のお婆さん他嫁たちばかりで、旦那衆はみんな酒ばかり呑んでいた。

 

 その旧家には妙な部屋が一つあった。

 広さは二畳ばかりだが、二階まで吹き抜けになっていて、天井板もなく、むき出しの梁が見える。明かりはなく、窓は南側の壁に小さなのが一つだけあって、昼でも二時を回るともう暗くなる。

 掃除しながら(へんな部屋だ)と思ったが、朝から晩まで目が回るほど忙しく、そんなことにこだわってる余裕はなかった。

 

 二日たった頃、昼飯時に用をいいつけられて、その「妙な部屋」の前を通った。

 すると、いつもは閉まっている繰り戸が開いている。おや、と思って何気なく覗くと、薄明かりの中、「妙な部屋」の中央に着物の帯が下がっているのが見えた。

 (おかしいわねえ、何で帯が……)と訝りつつ目を凝らすと、それは帯などではなかった。

 部屋に下がっていたのは蛇だった。

 二階の梁に尾を巻き付け、太い胴を長々と伸ばし、畳すれすれのところで頭をもたげている。昔の旧家のことだから天井は高い。おそらく五、六メートルはあるだろう。

 びっくりしたお婆さんは、音を立てないようにあとずさって部屋から離れた。

 

 あとでお婆さんが旦那に聞いてみると、その「本家」には、昔から巨大な蛇が住み着いていている、という。ネズミなんかは全部その蛇が食べてしまうのだそうだ。

 ただ蛇はめったにその姿を現さず、時折這う音が聞こえるだけで、かくいう旦那もその姿を見たことはない、とのことだった。

 

 ……来年の干支にちなんで、ちょっぴり民俗風味なお話。

 お婆さんの話は、この時いかに自分がこき使われて腹がたったか、というのがメインになってて、上記はその中のごく一部です。

 お婆さんは「もーーーっ、あんな気持ちの悪い家、二度と御免よ〜〜」と言ってました。

 私は個人的にけっこう好きですけどね。ライブ版『遠野物語』って感じで。

 ちなみに来年は柳田國男の著作権が切れるので、色々復刊されると思います。

 

 それでは皆さん、良いお年を。

 

 

遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)