苦しくたって悲しくたって勝ち組になるためなら平気だもん♪とかいってんじゃねーよ

 ちょっと微妙な話をします。

「ルイセンコ学説」ってのがありまして、以前にもちょっぴりだけ触れたことがありますが、これは旧ソ連で長い間「真実」とされてきました。

 どういう内容のものかというと、「寒いとこにタネをずっとさらしとくと寒さに強い品種になる!」という、大変な苦労をして品種改良なさっている方からしたら「なめてんのか」って話ですね。ちょいとお硬い表現でいうと、「獲得形質は遺伝する」ってわけで、両親がすっごい努力して成績が良くなるとその子供は生まれながらに頭が良い、という経験則からして「んなわけねー」ってなもんです。でもね、ずっと信じられてきたんですよ。そしてそれは「ヤロヴィ農法」という、お手軽品種改良農法を生み出して世界中に迷惑をかけました。日本でも下伊那でミチューリン運動がなされてます。中国や北朝鮮みたいに大量の餓死者が出なかっただけマシですが。

 で、これ、よく「社会主義イデオロギーが生み出した」って言われるんですけど、果たしてそうなんでしょうか。たまたま旧ソ連でひろまったってだけで、こういう「厳しい環境をくぐり抜けるとそこに新たな次元が!!」というファンタジーは、イデオロギーと関係なく広まってる、と思います。本来的な意味では、これこそが「イデオロギー」ですな。

日本のルィセンコ論争 (みすずライブラリー)  

 

 

 と、ここで体育会系の日本式しごきから昨今の柔道界のごたごたへ話を進める、なんてベタなことをするのはつまんないので、全然別な話をします。ある意味根っこのとこでつながってる話ですけどね。

 さてさて、普段はあんまりあてにしてないWikipediaですが、ちょっと面白い表現があったので引用してみます。

 

>後天的に獲得した性質が遺伝されるというルイセンコの学説は努力すれば必ず報われるという共産主義国家には都合のよい理論であり、スターリンは強く支持した。

 

 上記ボールドは筆者です。「努力すれば必ず報われる」……へー、これって共産主義だったんだー、ふーん、知らなかったなー、じゃあさ、竹中ヘーゾー君とかがよく口にしてた「努力した人が報われる社会」って何?竹中君は共産主義者だったの?

 つまんないツッコミはこの辺でやめといて、こういう「ルイセンコ的」(と便宜的に呼んでおこう)な思考法(本来的な意味での「イデオロギー」)ってのは、共産主義に限らないわけですね。

 農法に応用されてるだけならまだしも、社会的にこういう考えに毒されてる人はまだまだまだまだたくさんいます。

 社会的貧困を構造問題としてとらえることなく、「個人の努力」に集約して考えたがる人ですね。昨今の生活保護たたきなんかは端的な例です。

 

「努力」は確かにすばらしい。否定しがたい美しさがあります。しかし、それは所詮ロマンでしかありません。「ハングリー精神」とか「貧しい中から這い上がってきた」とか、お話としてはいいけど、それをリアルな社会に当てはめちゃダメですね。

 それなのに、ああそれなのにそれなのに、それを当てはめたがる人はたくさんいて、それだけならまだしも、そういう人たちは自分自身のことを「科学的思考により問題を合理的かつ論理的に考えているリアリスト」と思ってたりするんですよ。ほんとやんなっちゃう。

 

 そんなわけで「社会ダーウィニズム」ならぬ「社会ルイセンコ学説」は今も生き残っているのでありました。主に新自由主義方面で。

 貧困の中から「勝ち組」となるべく努力して這い上がってきた人間は、新たなる次元へと昇華された「超人」となるのだ!……なんてね、ニーチェならこんなの「弱者の思想だ」と切り捨てることでしょうな。

 

善人ほど悪い奴はいない ニーチェの人間学 (角川oneテーマ21)