詩人を警戒せよ

 上の動画は坂本龍一の『千のナイフ』の冒頭に流れる謎の言葉の解読です。毛沢東の詩だったんですねえ。でもこういう風につかってみたくなる気持ちはすごくわかる。なんたって、かっこいいもん。

 漢詩はそれほど詳しくないけど、昔ヒマに飽かせて岩波の『中国詩人撰集』をざらっと読んでみたことはある。こういうのは漢文についての基礎教養がないとついていけないもんだな、というのはわかったが、正直「ついていったらどこへ行けるの?」という疑問も抱いた。

 で、この毛沢東の詩なんだけど、おそらく「かっこよさ」では中国漢詩のトップレベルに入ると思う。動画だけだとよくつかめないかもしれないので(漢字がおかしい部分もあるし)、ちょっと書き写しておこう。

 ついでに余計かも知れんけど超訳してみた。高校程度の漢文の知識があればだいたい読めるし。あらかじめ言い訳しとくけど、正確さよりも「かっこよさ」を重点に置いてますんで。

 

重上井岡山          井岡(せいこう)山ふたたび

 

久有凌雲志      雲をこえるこころで

重上井岡山      井岡山へふたたび

千里來尋故地     はるかより尋ね来たり

舊貌變新顏      若い頃にもどるようだ

到處鶯歌燕舞     うぐいすの歌舞うつばめ

更有澱澱流水     そこに川がゆっくり流れ

高路入雲端      みちは雲の端へとつづく

過了黄洋界      黄洋界を過ぎ

險處不須看      もはやあらそうこともない

 

風雷動        風雷とともに

旌旗奮        旗はひるがえる

是人寰        それが歴史か

三十八年過去     三十八年など

彈指一揮間      指を弾く一瞬だった 

可上九天攬月     天上の月をもいだき

可下五洋捉鼈     大海の大亀をとらえ

談笑凱歌還      談笑し凱歌して還る

世上無難事      なんだってできるさ 

只要肯登攀      登りさえすればいい

 

 しかし、毛沢東についてのあれやこれやを知っていると、なんか素直に読めませんよね。

 中国の権力者ってのは、ちゃんと詩が作れることも評価のうちで、詩才がないと歴史的に蔑まれます。毛沢東もそんなような内容の詩を残していて、「中でもオレが一番」とうたっています。ま、それはしゃーない。

 じゃあ中国歴代皇帝で比肩しうるのは誰かと言えば、やはり三国志曹操でしょう。後に「建安文学」と呼ばれるものを起こし、自らも素晴らしい詩を書きました。その息子の曹丕曹植は父親以上と言われています。

 で、三国志を読みますってえと、曹操って……

 あ、いやいや「演義」に悪く書かれてるのは知ってます。でも、正史の方だけでもかなりちょっとアレな感じがしますよね。そういう時代だったんだ、ということを考えあわせてもなお。最近は別の評価も多いようですが。

 

 とかく、有名な詩人、文学史に残るような詩人ってのはアレな人が多い。いちいち例はあげないけど。

 そんな「詩人」に権力もたせたら、そりゃあいろいろアレなんじゃないでしょうか。

 ちなみに三国志の最後の勝利者、晋を建てる元となった司馬懿は、詩がへたくそでした。

 司馬懿については、最近「しばちゅうさん」というギャクマンガが出てまして、これを読むと色々面白く誤解、じゃなくて理解できます。おすすめです。ただ三国志についてある程度知識がないとついていけないんですが……

 

 

漢晋春秋司馬仲達伝三国志 しばちゅうさん(1) (イブニングKC)