『グレン・グールド 27歳の記憶』というDVDを見た。自分が生まれる前に撮影されたグールドのドキュメンタリー。もちろんモノクロ。音もモノラルかな。若いグールドは、まだ髪がふさふさしている。
一昨年、『グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独』という、今まであまり語られることのなかった、グールドの恋愛についての映画が公開されたが、なんとなく見に行く機会を逸してしまった。
生前のグールドには浮いた噂が全然なくて、一九九三年の『グレン・グールドをめぐる32章』という映画では、意地悪そうなインタビュアーに " Are You HOMOSEXUAL? "なんてきかれたりしていた。
グレン・グールドが夏目漱石の『草枕』を愛読していたのは有名な話。
日本でグールドを語るときの枕詞のようになっている。
彼はこれを「二十世紀最高の小説」といい、ラジオで朗読したこともあった。亡くなった時にも、枕元に聖書と一緒に置かれていたという。
The
Three-Cornered World (UNESCO Collection of Representative Works: Japanese)
グールドは早々とコンサート活動をやめ、レコード録音だけを発表した。
なので、彼と協奏曲を振った指揮者は少ないが、カラヤン、バーンスタイン、セル、と錚々たる名前が並んでいる。そして、その中になぜか朝比奈隆が紛れ込んでいる。
さすが年の功というか、九十歳まで現役だっただけのことはある。
曲目は、ベートーベン「第2ピアノ協奏曲」、ローマのサンタチェチェリア・オーケストラの定期公演で、一九五八年十一月のことだった。
後に朝比奈隆は、当時のことをこう回想している。
…………
私は指揮台に上ってオーケストラの立礼を受けたが、独奏者の姿は見えない。ソリストを見なかったかと尋ねても誰も知らないという。いささか中腹になってきた私は、「ミスター・グールド」と大きな声で呼んでみた。すると「イエス・サー」と小さな声がしてコントラバスの間から厚いオーバーの上から毛糸のマフラーをぐるぐる巻きにした、青白い顔をした小柄な青年が出て来た。(略)
その青年は弱々しい微笑を浮かべながら、一言「グールド」といって、右手を差し出した。
「お早う、気分はいいですか」と答えて握ったその手は幼い少女のそれのようにほっそりとしなやかで、濡れたように冷たかった。
…………
残念ながら、この時の録音は遺されていないようだ。
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