河童を喰いたいとか猿の肉は美味いとかその他にもいろいろ(グロ注意)(女性の講読を禁ず)(とくに妻)

 

警告

 

ご婦人方は読んではなりません。

 

 

 

 

 

 

 

 佐藤垢石著『狸のへそ』に興味を惹かれる話があったので、写しておこうと思う。

 ちなみに、佐藤垢石は井伏鱒二の釣りの師匠としても知られている。

 なお、新字新仮名使いに修正しておいた。

…………

 明治初年の話である。上州高崎鎌倉町の獣皮問屋坂本屋へ、河童の皮を売りに来た漁師があった。河童の皮というのは、現代の若い夫人が着るところの飴色のオイルシルクで作ったレーンコートに似たもので、指で触れるとまことにすべすべと滑らかであるそうである。

 (中略)

 そこで、坂本屋の主人は漁師に、河童の皮は兎も角買って置くが、河童の肉をたベたことがあるかと問うたのである。

 河童の肉は、常に食っている。頗る美味しいものだ、殊に、雄河童の肉よりも雌河童の肉の方がおいしい。今日も裸となって昼寝をしている雌河童を見て、引き捕えて宿へ持ち帰り、河童料理に舌鼓をうとうかと思ったけれど、自分としては日頃河童の肉を食い飽きているので今日は甘皮だけを失敬してきたのであると答えたそうだ。そこで、坂本屋の主人は、この漁師に河童の肉を注文したが、その後全くその漁師は姿を現さなくなったという話である。

…………

 

 なにやら虚実ないまぜというか、むしろ河童の皮のほうに興味が向く。

 考えてみれば、日本の民話は数あれど、河童を食う話はきいたことがない。

 著者は坂本屋の主人に「ぜひお裾分けを」とお願いしたが、とんとかなわないので代わりに泥亀(すっぽん)の肉を食べていると書いている。

 そしてさらに食味談義は続き、……

 

…………

 獣類の肉のうちでなにが一番おいしいかと問われたら、私は野猿の肉であると答えたいと思う。

 (中略)

 肉の組織の滑らかなこと、牛肉のロースの比ではない。さりとて、野兎の肉のように、ぐにゃぐにゃでもない。柔らかい細糸の絹布で、舌を撫でたような感覚である。舌縁に感ずる肉醤の味は、熟した白桃の汁に似て軽い酸味を含み、口に媚びるあくどい脂肪の下品さがなく、ほんのりと精微の感覚を神経に遺して行くのである。

 (中略)

 猿の体のうちで、最も貴重なところはどこであるかというと、陰茎である。この陰茎は、まず猟師のうちの長老が召し上がることになっている。老猿となれば、人間の子供ほどの大きさはある。したがって彼の陰茎もなかなか太く長い。第一に、その陰茎を根元から、ぷっつりと剪り取り、これを串に刺して榾火に焙るのである。陰茎は榾火に焙られる次第にじぶじぶと濃い脂肪をその皮膚に沁みだしてくる。

 ほぼ、脂肪が沁みだし尽くして皮がこんがりと狐色に焼けると、陰茎の中心まで火が徹った印になるから、その時猟師の頭は串のままじゅっと陰茎を醤油の中へ突き込み、それから口の中へ一口に放り込むのであるが、その柔らかさ、おいしさ。

 まるで、鰉(ちょうざめ)の乾した鮞(はららご)を食べる比ではない。

…………

 

 つまり、キャビアより美味いという。

 男性なら、読みながら股間がうすら寒くなったことと思う。

 しかし、ちぢみあがる読者の息子を尻目に、なおも話はつづく。

 

…………

 日本でも、睾丸料理は珍しくない。牛や馬の睾丸料理は普通であるが、今は伊豆大島付近の海中へ下田通いの汽船から身を投じて自殺した極洋捕鯨会社の小間船長は、毎年南極へ遠征するたびに鯨の睾丸を四斗樽に幾本も鹽漬けにして持ち帰り、これを友人に頒っていた。

 鯨の睾丸は白みを帯びた淡紅色を呈し河豚の白子のごとくやわらかく、その魔味に魅せられないものはないというが、これは補精の薬として珍重されている。

(中略)

 睾丸もさることながら、それに珍味であるのは動物の陰茎である。そのうち、最も人に歓迎されるのは、驢馬の陰茎である。これは、輪切りにして醤油焼きにして食べるのが最もおいしい。

(中略)

 さらに、熊の陰茎が素晴らしい。

(中略)

 ここに注意すべきは、熊の陰茎には骨が入っていることである。軟骨ではない。普通の硬い骨で太さ割り箸ほど、長さ四寸ほどで、平素は腸中深く内蔵して置く。熊を撃つとまず陰茎を掘り出して縮に割き、骨を払って輪切りにし、鹽焼きにして食べるのであるが、これは婦人に特効を持ち、殊に子宮病を治し、子なき婦人に子を生ましめるというのであるから、上原君が撃ったときくと、遠路を探ねてあちこちから子なき婦人が集り来るそうである。

(中略)

 狼の陰茎は六月上旬ころに採ったものが最も上等で、これも茎中から骨を引き抜き、百日間陽かげぼしとなす。

(中略)

 狐の陰茎は食用にしても佳品、また薬用にして卓効がある。

…………

 

 えー、まあ、あの、もしかしてアベサダって、食べようとしたのかなあ。なわけないか。

 とりあえず、今夜は股間を押さえて眠ることにしよう。

 

 

阿部定手記 (中公文庫)