自由ってなんて不自由なんだろう♪なんて吉田拓郎風に歌ってみたりして「ハイエクどんとケインズどん編」

「さて、神が到着した。5時15分の電車に乗ってきた神に私は会った」

Well, God has arrived. I met him on the 5.15 train...

 

 これはウィトゲンシュタインを出迎えたケインズが、そのことを妻への手紙に書いたその一節である。ヴィトゲンシュタインの「神話」を輝かせるものとして、伝記等に何度も引用されている。実際ケインズは、ヴィトゲンシュタインに生涯畏敬の念を持ち続けた。

ケインズどんとハイエクどん
ケインズどんとハイエクどん

 さて、このアウラを放ちながら駅に降り立った神には、遠い親戚があった。その神と血を分つものは、皮肉なことに、ケインズの一番の論敵だった。

 フリードリヒ・アウグスト・(フォン)ハイエク、ハイエクの母親はヴィトゲンシュタインの母親とまたイトコだったのだ。(イトコと書かれている本もあるが、またイトコが正解)

 ハイエクがこのケインズが呼び寄せた遠縁の「神」についてどう思っていたかというと、あまりよろしくはなかったようだ。ヴィトゲンシュタインについて「……ありのままに言えば、彼はいつも私には、高い才能に恵まれてはいるが神経症的な一族の最も狂った一員であるように思えた。つねに狂気の境にいるのだから、言うことをあまり真面目に考えてはならないのだ……」と書簡にしたためている。

 むしろハイエクは、友人でもあったカール・ポパーの方を高く評価していた。ポパーはあからさまにヴィトゲンシュタインを批判していた。ケンブリッジでポパーが講演した際、俗に「火かき棒事件」と呼ばれるものが起こっている。それはヴィトゲンシュタインが火かき棒で「くらえこのやろう」とポパーに殴り掛かった、というようなコミカルなものではなく、もっとずっと地味でなんだかイヤな気持ちにさせられる事件だった。(これについてはまたいつか)

 

 ところで、ヴィトゲンシュタインと遠い親戚だということもあり、ハイエクにはずっと「ユダヤ系」との説がささやかれてきた。ヴィトゲンシュタインがユダヤ系だからだ。ケインズの身長が一九八㎝もあったので(プロレスラーみたいだね)、並ぶとずいぶん小さく見えた、ということもあったかも知れない。

 それからハイエクはウィーン時代、「精神学団」と呼ばれるユダヤ系が集まる学術集団に所属していたことがあり、ここからは多くのことを学んだと後年述懐している。A.シュッツともここで出会った。

 しかし、ハイエクがユダヤ系でないことは、今日はっきりしているそうだ。誰か知らんが、家系をずっとさかのぼって調べたんだとか。お疲れさま。

 二人の論点の違いは、「自由」をどう扱うか、に尽きる。

 ケインズは「自由放任」(レッセ・フェール)の終焉を宣言し、「神の見えざる手」を批判した。ハイエクはその反対。とにかく自由にしろ。いや自由にさせろ。二人は超高速で逆方向に回る二つの歯車のようなもので、近づけば火花を散らすのは必至だった。今なら「まぜるな危険」とお互いの背中に貼っつけておきたいところだ。

 

 ハイエクはケインズを罵倒し続けた。著作の中でも機会あるごとに罵倒している。批判ではなく。それほどまでにケインズの理論は、ハイエクにとって受け入れがたいものだった。

 そして、ケインズ主義を社会主義やナチズムと一緒くたにしている。

 なんだか乱暴な話だが、これは当時世の中の主流であったケインズ主義に対する嫌がらせだったんだと思う。

 ハイエクはケインズを批判し、同じ口調で社会主義も批判した。そしてナチズムも……批判はしたが、前二者に比べればずいぶん手ぬるい。通り一遍に批難しておきました、くらいの印象がある。ハイエクにとってナチズムは、ケインズ主義をくさすためのいやがらせの小道具でしかないようだ。

 

 実は、ここにも「自由」についての本質が見え隠れしている。実際ハイエクの思想では、ナチズムについて他の論者のように激烈に批判することができないのだ。ピノチェトを支持したのと同様の理由で。それについては明日以降に。

ケインズとハイエク―貨幣と市場への問い (講談社現代新書) 増補 ケインズとハイエク―“自由”の変容 (ちくま学芸文庫)

コメントをお書きください

コメント: 1
  • #1

    Elly Galicia (金曜日, 03 2月 2017 18:07)


    Hi there, You have done an incredible job. I will definitely digg it and personally recommend to my friends. I am sure they'll be benefited from this site.