それを愛とは呼ばないだけで

 育ててみるとわかるが、子供というのは基本的にアホである。

 アホというのが悪ければ、親の心など顧みないわがままのかたまりである。

 いやほんと、小学校に入る直前くらいは、アンパンマンについてえんえんと知識をお授け下さったり、食事中にうっかり口に入れたピーマンをやさしく噛み砕いてからこちらのご飯の上に吐き出して下さったり、バスに遅れそうなのにおしっこをもらしたり、そのくせ「ぱぱがおしっこおもらしました」と文書にして提出して下さったり、指折り数えたら指が粉々になりそうだ。暴君に仕える家臣とはこうしたものか、と思い至る。

 彼らの発する「NO!」は神すらも怖れぬ、世界の破滅すら願う全身全霊の叫びである。なんと恐ろしい。

 ヴィトゲンシュタインはノートの切れっぱしにこう書き付ける。

「子供の叫びが理解できる人には、その叫びの中に、普通想定されるものとは違う霊的な力、恐ろしい力が、まどろんでいるのだ、ということがわかっているのだろう。深く激しい怒り、そして痛み、そして破壊欲」

 ヴィトゲンシュタインは『論理哲学論考』を書いた後、「するべきことは成した」と田舎に引っ込み、小学校の教師をしていた。そこで体罰でごたごたを起こし、やめざるをえなくなった。

 

 とまあ、純粋な欲望のかたまりのように思える「小さな暴君」だが、実は大いなる慈悲心を持つ賢明なる存在であることがこの度明らかとなった。

 

「情けは人のためならず」を初実証
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1308/09/news042.html

>研究では、大阪府内の5、6歳児70人を対象に日常の行動を観察。1人がおもちゃを貸すなどの親切な行動をとった際、周囲1メートル以内にいた他の児童1人のその後10分間の行動を、日常時と比較した。

>その結果、近くにいた児童が親切を行った児童に対してとった親切行動は、日常時の1時間あたり0・47回から5・58回へと大きく増加。体に触れ たりして仲良くしようとする行動の頻度も2倍以上となり、社会間接互恵性が幼児期から日常生活で発揮されていることが明らかとなった。

 

 ……じぇじぇじぇじぇ!(いかんな)普通科学による人間行動の実験というと、いかに人間というのが利己的で欲望にまみれてるかを実証するものばかりという印象があったが、これはいわば性悪説に対して性善説を唱えるような感じのものだ。

 ちなみにオリジナル論文はこちら。

Preschool Children's Behavioral Tendency toward Social Indirect Reciplocity
http://www.plosone.org/article/info:doi/10.1371/journal.pone.0070915

 

 同情や親切を軽蔑し、超人を「小児のごときもの」としたニーチェはどう思うだろう。ていうか、哲学者って、全般に子供が嫌いだよね。

 

 でもどうかな、これからこの実験結果が大きな影響を持ち得るかというと、なんとも心もとない感じがする。それくらい世界は「利己的遺伝子」(byドーキンス)で満ちあふれている。

 経済学だって、「インセンティブ」とやらいう、利己的な利得がなければ人間は行動しないことになってるし。

 人間を個々に、バラバラにしておきたい人にとっては、こういう実験結果は受け入れがたいものじゃなかろうか。

 

 でもまあ、子供が基本的にアホであることには変わりはない。

 そろそろ受験の娘も含めて。まったく。

 

 

利己的な遺伝子 <増補新装版>

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コメント: 2
  • #1

    森猫 (火曜日, 13 8月 2013 23:55)

    幼児はお互いに共鳴しますよね。
    伝染するみたいに。
    おとなが「良い事」としていることも、そうでないことも。

    「親切ではない行動」についても同時に調査すればよかったのにね。
    「朱に交われば赤くなる」を実証できたと思いますよ。

  • #2

    ひらきや (水曜日, 14 8月 2013 13:13)

    コメントありがとうございます。

    娘の幼い頃を思い返して、しょっちゅうごたついたことばかり頭に浮かぶので、「この実験をした人たちは子供がいないのでは?」などと思ったりもしました。
    オリジナル論文を見ると、マイナスな行動も含めて調査しているようで、ちょっと考えさせられてしまいました。