「漆原教授」というのは、二十年ほど前に流行った『動物のお医者さん』という漫画の主人公……は別にいるんだっけ、まあ、そんなような人のことです。
わがままで無敵で傍若無人という、なんかよく似た人が側にいたような、そんな気にさせる大学教授であります。
で、この人はとある病気の世界的権威(自称)でありまして、それがなにかというと…
「仮病」
…なんですね。
しかしこれ、実はとっっっってもすごいことなんです。
ここでがらりと話が変わって、精神医学に『ローゼンハンの実験』というのがありまして、これがなにかというと、「精神科の医者は患者が仮病を使ってても区別できない」というのを実験してみたものです。
どんなことをしたかというと、デヴィッド・ローゼンハンという心理学者が、仲間たちとかたらって、
「おおおお、神だ、神の声が聞こえる」
「あああ、死んだモンローが語りかけてくるよ、ほんとだよ」
「どこからともなく『お前は大統領になるべきだ』という指令が電波になってやってきた!これって運命だよね」
とかてきとうなことぶっこいて、わざと精神病院に入院したんですね。
で、すぐに「あ、治ったよ。何も聞こえなくなったよ」と言ったのに、平均して十九日間退院させてもらえなかった、と。長くて五十二日、短くても一週間は解放されなかった。
そしてそのことを発表したら、なんのことわりもなく実験台にされた病院の先生方がかんかんになって(そりゃそうだわな)、「次に同様の実験をしたら、必ず見つけ出してやる!」となりました。
それでローゼンハンは「じゃ、やりましょ」と応じたので、病院側は必死になって患者を選別し、「四十一名の偽患者をつきとめたぞ。どうだ!」と勝利宣言しました。
ところが今度は、ローゼンハンは偽患者を送っていなかったのです。一人も。
いやあ、ローゼンハンって、性格悪いなあ。
これって、当ブログの「ららら科学の子」シリーズにもつながることなんですが、科学ってウソを見抜けないんですよ。
だから、この実験で「精神医学なんて無意味だ!」とはちょっと言えない。
だいたい医学の中でも精神医学ほど患者との信頼関係に腐心する分野もないわけで、そこで意図的にウソをつかれたらまずお手上げでしょう。
日本でもウソこいてワザと入院してルポを書いた人がいました。
だから裁判での精神鑑定なんかも、ちょくちょく意見が割れますね。ああいうのは、どこらへんまで犯人と「信頼関係」を築けるか、というのも変な話ではあるけど、まさにそこが鍵になってくるんで、一概には言えないわけです。
ついでに書いとくと、狂人を無罪にするのは別に人権思想だけからでもなくて、昔の日本も乱心しての行いは免罪されることが多かったんです。
さて、ここで最初に戻って、こうして考えてみると、「仮病を仮病だと見抜く」ことができる漆原教授は、実はすっっっっごい名医なわけであります。マジで。
カシオミニを賭けてもいいですよ。
コメントをお書きください