本というものは禁ずるとかえって増えてしまうのだ

 本が発禁になると、「これはもう普通の本屋では買えないんだから、きっと古本屋で高い値段がつくに違いない!」と鼻の穴広げてしまう人が多いようですが、実際は全然安かったりします。

 なんでかっていうと、発禁書ってよく売れるから。

 現代の日本での発禁は珍しいんで、新聞なんかに結構大きく取り上げられますから、ちょっとしたベストセラーになるんですね。臼井吉見の『事のてんまつ』なんか、今でもちょこちょこ見かけます。あ、発禁じゃないけど、こないだの『はだしのゲン』は、通常の三倍売れたそうですね。笑っちゃいますな。

 

 

三島由紀夫―剣と寒紅

 

 発禁と言えば、ちょいと前なら『三島由紀夫―剣と寒紅』てとこですか。あんまり古本屋に持ち込む人が多いんで、一時期百円均一棚にずらりとならんでいたこともありました。みんな考えることはいっしょですな。

 三島については遺族が今も強硬で、ちょっとでもアレな表現で取り上げると、すぐに訴えられてしまうようです。映画でも『MISHIMA』が上映禁止になりました。

 

Mishima - A Life in Four Chapters

 

 ポール・シュレイダー監督(カルトやなあ)、緒形拳主演、音楽はなんと『浜辺のアインシュタイン』のフィリップ・グラス! あー、劇場で見たかったなあ。『鏡子の家』の部分は沢田研二が主役ですね。なんか、いろいろとわかってらっしゃる。

 またそれとは別に、昔々、雑誌の文藝春秋が三島の遺族を起こらせたことがありました。すったもんだの末、それ以来文藝春秋社は三島の著作を発行できないだけじゃなく、自社の刊行物に「一行たりとも」三島の作品を引用できなくなったんだそうです。ひえええ。ほんまかいな。

 

 さて、発禁についてなら、もっと「大物」がいます。深沢七郎の『風流夢譚』です。

 

「風流夢譚」、電子化で解禁 半生記前、テロ誘発した問題作
http://book.asahi.com/booknews/update/2013082200003.html

 

 とまあ、今では電子書籍で堂々と読めるようになってますが、ちょいとぐぐればここで見られることくらいすぐわかりますけどね。

 しかし、この作品が掲載された中央公論は、今も古本としてちゃんと値が高いです。さすがに。

 で、この小説と三島についてはちょっとしたエピソードがありまして、中公の編集がこいつを載せたものかどうか、事前に三島に相談してみたんだそうです。三島は一読して「すばらしい作品だ。これは絶対に載せるべきです」と断言し、でも勘違いする輩がいるかも知れないから自分が書いた『憂国』と同時掲載してはどうか、とアドヴァイスしました。が、中公の編集はいらん欲をかいたのか、二つを別々に掲載してしまったんですね。そして風流夢譚事件(嶋中事件)が起きてしまったとかなんとか。

 まあ、三島にとって深沢七郎は、同時代の作家として唯一人「恐るべき存在」だったそうですから……

 

一九六一年冬「風流夢譚」事件 (平凡社ライブラリー (158))

 

 ところで、古本屋を生業としておりますので、当然『風流夢譚』が掲載された中央公論も読んだことがあるわけですが、印象に残ってるのはこの作品の内容よりも、それに添えられた谷内六郎の挿絵の方でしたね。

 谷内六郎といえば、ながらく週刊新潮の表紙で中味の泥臭さを包むオブラートのような、愛らしくもどこかせつない子供の絵というイメージが強いです。で、『風流夢譚』の挿絵もそのまんまなんです。愛らしさがそのまんま。そのまんまだから、なんかいっそう怖い。「美智子妃殿下の首がスッテンコロコロ」なんて小説の挿絵が、なにやら愛すべき子供たちがわいわい騒いでるような風情なんです。こいつはけっこうなホラーだ。もしかすると中公の編集は、少しでも作品の臭みを和らげようとしてこのような挿絵にしたのかもしれませんが、だとしたら逆効果だったとしか言えません。これはほんと、挿絵もコミで復刊しないと「衝撃」が全部伝わらないんじゃないかな、と思います。機会があったら確認してみて下さい。なお、残念ながら、現在当店に在庫はございません。