なんかイヤなことを思い出したので吐き出しておこう(ストレスを貯めたくない人は読まないで下さい)

 テレビというものをあまり熱心に見なくなってずいぶんになる。ワイドショーというヤツはいまも健在なのだろうか。もし健在だとすれば、今もリポーターだかが現場に駆けつけて、道往く人の鼻の穴にマイクをねじ込もうとしているのだろうか。

 一度だけ、ワイドショーのリポーターとカメラの群れを間近に見たことがある。私がオリヴィア・ニュートンジョンの不倫相手だと暴露された、とかならうれしかったが、その時私はまだ高校生で、フルメタル・ジャケットの新兵たちよりも女性に縁のない青春を送っていた。

 彼等のターゲットは私の通う高校そのものであり、校長であり、当時「ある人物」の元担任だった教師だった。

 その「ある人物」とは、金属バットで真夜中にスイカ割りをした男である。ただまずかったのは、スイカの代わりに眠る両親の頭部を使った。

 

 当時私は高校三年生で、受験勉強に邁進していた。学校の中の空気は最悪で、今でもあまり思い出したくない。美術部で油絵を描くことだけが心の支えだったが、担当教師がホモ臭くて困ったものだった。その教師はぽっちゃり系が好みだったので、もう一人の部員としょっちゅういちゃついていた。やせた私は対象外だったので、妻は安心してくれていい。

 あけてもくれても勉強勉強勉強で、元海軍予備校の校舎はその陰鬱な空気をマリアナ海溝並に息苦しくしてくれた。

 そんなとき、新聞に金属バットで両親殺害の記事がでかでかと載った。

 そして三日と立たぬうちに、それが私の通う高校のOBであることがわかったのだ。

 さて、前半部でつまらないジョークを飛ばしてしまったが、当時私のクラス担任が吐いたセリフに比べれば大したことはない。

 彼は事件の翌朝、ホームルームで舌打ちをしながらこう言ったのだ。

 

「ま、これでだな、うちの高校も有名校の仲間入りだ」

 

 人間の底の浅さというものは、こういうときにあからさまに露見するのだろう。

 しかし、はなはだ残念ながら、この予言は的中することになる。どうやらこの世の中は、人々がイメージしているのとは反対に動くらしい。

 今や偏差値75、全国九位の進学校である。私の通っている頃もまあまあ高かったが、これほどではなかった。

 この世の中が、どこかわからないが歪んでいる、と感じるのはこんなときだ。

 クラス担任の教師が吐いたセリフを背後から支える「力」が確かにあって、その「力」はわが母校を超エリート校に押し上げてくれたのだ。

 こいつはショッカーや死ね死ね団よりもずっと手強い。盗んだバイクで走り出したり教室の窓をたたきわっても、蚊に刺されたほども感じないだろう。

 

「ある人物」の消息は知れないが、とうに出所しているはずだ。見沢知廉の『囚人狂時代』によれば、刑務所のレクレーションで草野球をやった時、金属バットを振り回す彼に前科数犯の男たちがビビったとのことだ。

 もしどこかで出会うことがあったなら、個人的にはちょっと礼を言いたい。

 あの事件以来、毎日のように聞かされていた母のイヤミがぴたりと止んだからだ。

 

 

囚人狂時代 (新潮文庫)